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ショッピングセンターの浄化槽の維持管理
敷島 哲也 藤吉工業(株) (月刊浄化槽 2012年12月号)
1.はじめに
2.ショッピングセンターの特徴
3.ショッピングセンターの浄化槽保守点検上の留意事項
4.おわりに
 
1.はじめに

  ショッピングセンターは複数の小売店舗が集まった商業施設であり、1922年にアメリカのカンザスシティで始まったものが最初のものと言われています。日本では1964年にオープンしたダイエー庄内店(現・ダイエーグルメシティ庄内店)がショッピングセンターの日本初とされ、その後1968年にダイエー香里店(2005年閉店)がオープンし、日本初の本格的な郊外型ショッピングセンターとされています。ショッピングセンターの定義は一般社団法人日本ショッピングセンター協会によれば「一つの単位として計画、開発、所有、管理運営される商業・サービス施設の集合体で、駐車場を備えるものを指し、その立地・規模・構成に応じて、選択の多様性、利便性、快適性、娯楽性等を提供するなど、生活者ニーズに応えるコミュニティ施設として都市機能の一翼を担うものである」とされます。また、百貨店のように単一の企業が複数の分野の専門店を統一的に運営するのではなく、ディベロッパーが計画・開発して不動産賃貸業等を行うものです。
  我が国では、車社会への推移と共に、広大な敷地を確保する大型ショッピングセンターの出店が盛んになり、特に2000年の大規模小売店舗法が廃止され大規模小売店舗立地法が制定されてからは、数と規模は大きく増えました。前述の日本ショッピングセンター協会の統計資料によれば、2011年12月末時点で3,090店舗、総店舗面積は45,697,455m2となっております。
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2.ショッピングセンターの特徴

  ショッピングセンターは複数の小売店舗が集まった商業施設ですが、近年は出店しているテナントも衣・食・住の商品群を取り扱う店舗だけでなく、映画館やスポーツセンター、レジャー施設、診療所など小売店舗以外のテナントが入っている商業施設が多く見られます。集客数が多いため、それに対応するための広大な駐車場を保有しています。テナントの多さや多様性から、来場者の滞在時間は長い傾向にあります。それに対応しての飲食店も数多く出店しており、レストラン街やフードコートがあるのも大きな特徴です。
  運営側が不動産業であるため、テナントが短期間で入れ替わることも多く見られます。

 2-1.建築用途としてのショッピングセンター

  ショッピングセンター計画時の人員算定は、建築物の用途別によるし尿浄化槽の処理対象人員算定基準(JIS A 3302−2000)の5.店舗関係のイ.店舗・マーケット又はロ.百貨店として計算されますが、映画館やレジャー施設、汚濁負荷の高い飲食店などのテナントも数多く入るため、各々の建築用途について別途算出し、合算することになります。
  汚水量と濃度についても、JIS法の算定基準に加え、計画している集客数や、ショッピングセンターの規模、立地条件、テナントの種類から推定される来場者の滞在時間等を総合的に判断し、安全を見込んだ算定をする必要があります。特に、オープン時やイベント時の来場者による汚水量は、通常の算定から計算した計画汚水量の数倍に膨れ上がる場合もあるため、注意が必要です。排水時間も、通常は8時間としますが、実際の営業時間を確認し、前後1時間の店舗の準備・片付けの時間を考慮する必要があります。

 2-2.ショッピングセンターからの流入汚水

  ショッピングセンターから排出される汚水は、入っているテナントの種類や数、来場者の客層等によって千差万別ですが、特に注意が必要なものとしてレストラン街やフードコートからの厨房排水中の油脂があります。通常、各テナントの厨房内、又はショッピングセンター建屋の外に数店舗分をまとめてグリストラップが設置されていますが、日常管理がテナント側の責任になっていることが多く、適正に清掃・管理されているとは言い難いのが現状です。
  図1はあるショッピングセンターの厨房除害施設の流入排水中に含まれるノルマルヘキサン抽出物質(油脂分)の経年変化をみたものです。各テナントにはグリストラップが設置されていますが出口側のn-Hex濃度は、概ね200mg/Lで推移しています。

  また、計画時とテナントが入れ替り、既設のグリストラップの容量が新しい飲食店に対して不足する場合や、中には通常の小売店が飲食店に替わることもあります。従ってこうしたテナントから排出される厨房排水は油脂濃度が非常に高くでる傾向にあり、あらかじめ浄化槽の前段に除害設備を設置する必要があるケースもあります。

 2-3.浄化槽の設置場所、臭気の問題について

  ショッピングセンターには広大な敷地があるため、余裕のある保守点検スペースを確保した設置が期待されますが、実際には少しでも店舗面積や駐車場面積を多く取るために、駐車場又はバックヤードへの設置となる傾向があります。そこは頻繁に浄化槽の上を車輌が通過するために保守点検作業に支障が生じ、また営業時間帯に来場者に不快感を与えるため、開店前までに作業を終わらせるという時間的制約を課せられる場合がしばしばあります。また、設置場所は臭気の問題とも密接に絡んできます。浄化槽の設置は建物の構造を考慮し、浄化槽は出入り口はもちろんのこと、バックヤードの搬入口付近の設置も避けたいところです。同じ理由で空調設備に隣接するのも可能な限り避けたいです。これらの配慮を怠った場合、臭気が店舗内に侵入する恐れがあります。排気管の吹き出し口は、周囲への影響が小さいところを選ぶべきです。空調設備の外気取り込み口付近は絶対に避けてください。稀に、店舗敷地内では臭わなくても、遠く離れた高層マンションから臭いの苦情が来ることもあります。可能であれば、排気の脱臭装置も併せて設置することを強く推奨します。
  最後に、浄化槽工事の範囲に入ることは少ないですが、ショッピングセンターは店舗面積が大きい上に、階数が低いことが多く、排水管の距離が長くなる傾向があるため、汚水の移送に中継ポンプ槽を用いる事が多くなります。汚水が滞留するために悪臭の原因となる箇所であり、また、中継槽で腐敗した汚水を浄化槽が受け入れることで、浄化槽でも悪臭が発生することがあり、排気管や防臭蓋等のような対策を講じていない場合に臭気トラブルの要因となります。ポンプの被りの分だけ汚水を溜める構造になっている場合、夜間の滞留時間により発生する硫化水素により中継槽のコンクリート部分が腐蝕することもあります。

 

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.ショッピングセンターの浄化槽保守点検上の留意事項

  弊社に於いても、幾つかのショッピングセンターへの浄化槽の設計・工事、保守点検業務に携わって参りました。しかしながら、保守点検に関しては、既に下水道へ切り替わっった物件も多く、浄化槽としての記録があまり残っていないのが実情です。一方で大型ショッピングセンターの除害施設の設計・工事や保守点検の実績もいくつかあり、抱えている問題点には共通の事柄も多いため、浄化槽の事例とも併せて報告させて頂きます。尚、顧客情報の都合上、件名と場所は伏せ、店舗面積と設置年月、人槽、汚水量についてもおおよその数字とさせて頂きます。

  3-1.負荷の傾向

  店舗の立地条件、ターゲットとしている客層によって、大まかな傾向が予想できます。地元密着、客の年齢層が高い、取り扱う商品もブランド志向より実用性の高いものが多い場合は、設計負荷よりも低い傾向が見られます。



  図2は開店から20年余り経つ店舗ですが、設計値の2割程度の流入量になっていました。開店当初は8割程度まで水量があったそうです。


  図3も図2同様に20年余り経過していますが、水量は6~8割で推移しています。ただし、汚濁負荷はほとんど無く、長時間ばっ気方式のばっ気槽のMLSSは辛うじて1000mg/Lを維持している状況です。放流水は清澄です。
  一方で、広大な駐車場を擁し、客層も若者や家族をターゲットとし、ブランド志向の店舗、飲食店、映画館など集客力の高いテナントを数多く入れているショッピングセンターは、県内全域規模での集客力があり、流入汚水量、負荷量とも設計値をしばしば上回ります。先にも述べましたが、オープン時、イベント時、改装オープン時などは、来場者が急増し、想定以上の負荷が発生するため、あらかじめ営業予定を把握するなど、注意が必要です。




  図4・5は厨房除害施設ですが、水量、BOD負荷ともに、設計値を上回ることがありました。

 3-2.保守点検上の留意事項〜具体的事例より

  3-2-1高濃度油脂排水@

  Aショッピングセンターには高濃度油脂を含む厨房排水への対策として、厨房排水系統に沈殿分離槽の同様の構造をした油脂分離槽がついていました。これには設計上6時間程度の滞留時間が設定されており、油脂の確実な分離と排水水温の低減が目的とされていました。分離槽は機能を発揮し、約1,000mg/Lの濃度で流入する油脂を分離除外し、後段の除害設備は正常に機能していました。しかしやがて排気口から強い硫化水素臭がするという苦情が入りました。調査したところ、流入の無い夜間に油脂分離槽内水が嫌気化し、朝流入が再開したときに、後段の水槽へ落ちた移流水中から硫化水素が発生していることがわかりました。対応として、1)油脂分離槽内に散気装置を設置して分離機能を損なわない程度に軽くばっ気撹拌がかかるようにし、2)除害施設内部で循環させていた沈殿槽の余剰汚泥の一部を油脂分離槽に戻して、汚泥によるマスキングを行いました。これにより、硫化水素の発生は問題のないレベルまで低減されました。このとき、開店当初は水量が多かったために油脂分離槽の滞留時間が設計より短かったために嫌気する度合いも小さかったことがわかりました。

  3-2-2高濃度油脂排水A

  Bショッピングセンターでは厨房除害施設に担体流動法を採用していました。採用していた担体はポリウレタン系のスポンジ担体であり、流入排水中の油脂濃度が高かったために、担体内部に油脂が蓄積し、担体が劣化、崩壊しました。一般に水処理用のスポンジ担体は耐油性と引き替えに耐水性を持たせており、表面に特殊な薬品を吹き付ける等の加工を施したものでない限り、油脂に対する耐性が低く、高濃度の油にさらされると脆くなります。当施設においては担体の補充を断念し、活性汚泥法に切り替えました。

  3-2-3臭気問題

  Cショッピングセンターは周辺地域の再開発が進み、近隣に住宅が増えるにつれて臭気の苦情が出てきました。それまでも浄化槽がついていることで多少とも臭いは出ていたのですが、近隣住民が増えたことで臭気問題が出てきたのでした。点検蓋の防臭タイプへの変更、臭突管の改修工事等を行ったのですが、臭気の状況はかなり改善されたものの、臭気の苦情は無くなりませんでした。臭気の問題は、一度臭うと許容範囲が厳しくなる傾向にあり、問題解決が長期化になりがちです。話し合いの結果、とにかく昼間の臭いを無くして欲しいということでした。汚水量の調査した結果、計画汚水量150m3/日に対し、実水量は30〜50m3/日であり、土日でも60m3/日程度でした。流量調整槽の容量も1日分を十分蓄えられる大きさがあったため、昼間は流量調整槽に汚水を貯め、夜間に連続運転を行う運転にしました。制御盤を改造し、営業時間帯はブロワ、ポンプとも休止(流量調整槽とばっ気槽は腐敗防止のために間欠ばっ気を行う)させ、営業時間の終了と共に連続運転に切り替わるようにしました。夜間に従業員からは多少臭うという話はありましたが、近隣からの苦情はなくなりました。

  3-2-4作業時間等の制約

  前述にもある通り、ショッピングセンターの浄化槽は、広い敷地にも関わらず、保守点検作業が困難な場所に設置してあるケースがよくあります。例えば、開店前の遅くとも9時までに作業を終わらせるよう指示を受けたり、開けて良い点検蓋が指定される、或いは開けられる蓋が限られていたり、少しでも臭いを抑えるために点検蓋の開けっ放しを許されないなど、保守点検作業に支障をきたすものも少なくありません。何より、運転が順調であれば良いのですが、水質が芳しくなかったり、臭気が出ると苦情を受けた場合に、対応をしたくとも早朝の流入の無い時間帯の保守点検作業では水質が悪い時・臭いが出る時の状況が分からないという問題があります。店舗の設備担当とよく話し合い、浄化槽不調の際には昼間の時間帯の運転状況確認のために作業をさせてもらうことも必要となります。

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4.おわりに

  平成23年12月末時点での全国のショッピングセンターの数は3,090店舗であり、その内郊外地域及び周辺地域の店舗数は、各々1,695店と752店であり、およそ8割が浄化槽を設置している店舗と予想されます。ショッピングセンターの浄化槽の保守を行う場合、入居するテナントの建築用途が多種多様であり、客層の変化により負荷も大きく変動するため、作業は非常に難しいものになります。また、規模的に浄化槽そのものが特定施設になることも多く、特に東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の指定地域においては比較的小さい店舗の浄化槽でも指定地域特定施設(201人槽以上)となる場合があるため、注意が必要です。
  実現場のデータはなかなか収集する機会が無く、今回の報告書は基本的に管理日報とクレーム報告の解析、及び各保守点検作業担当へのヒアリング調査を元にまとめました。店舗の情報については、ショッピングセンター協会の統計資料により、設置場所と店舗面積でほぼ特定されるため、割愛しました。また、紙面の都合上書ききれなかった事柄もあります。しかしながら、弊社保守点検業務における最近の事例を元に、極力実際上の業務に沿った内容にまとめるよう努めました。ショッピングセンターの浄化槽保守点検作業に多少なりとも参考となれば、幸いです。

 
 
出展
一般社団法人ショッピングセンター協会 ホームページ掲載資料
「浄化槽維持管理マニュアル」監修:厚生省環境衛生局水道環境部環境整備課、
発行:日本環境整備教育センター
(藤吉工業株式会社 設計本部)
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