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浄化槽を通じた地域貢献の新たなかたち
〜四国初・企業版ふるさと納税での浄化槽寄付と小学生向け学習イベント〜 |
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内藤 衣里 |
(一社)浄化槽システム協会講師団 |
(月刊浄化槽 2025年9月号) |
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1.企業版ふるさと納税とは?
企業版ふるさと納税(正式名称:地方創生応援税制)は、国が認定した地方公共団体の地方創生プロジェクトに対して、企業が寄付を行うことで法人関係税(法人税、法人住民税、法人事業税など)から税額控除を受けられる制度です。対象となる寄付先は、国に認定された「地域再生計画」に位置付けられる地方公共団体の地方創生プロジェクトです。ただし、寄付を行う企業の本社が所在する地方公共団体や、財政力の高い一部地方公共団体への寄付は対象外となります。
この制度は、地方公共団体と企業が協力して地域課題の解決や新しい街づくりを推進するための仕組みとして注目されています。
※今後の税制改正や政策の見直しによって内容や期間が変更される可能性があります。
最新情報は内閣府や総務省の公式発表、または地方公共団体の案内などでご確認ください。 |
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2.当社が企業版ふるさと納税を行ったきっかけ
この度、当社は愛媛県宇和島市の地域イノベーション拠点施設「ビーチビレッジ石応」へ、浄化槽及びキッチン等の物納寄付を行いました。
ビーチビレッジ石応は廃校となった小学校を地域創生の拠点としてリノベーションした施設で、地域活性化に関心を持つ都市部の企業と地元企業との共創を促進するとともに、新たな地域住民コミュニティの形成を目指しています。しかし施設には単独浄化槽が設置されており、使用用途も変更になるため、活動を広げていくためには新しく浄化槽を設置する必要がありました。
そこで事業主が企業版ふるさと納税の出資者候補について設計事務所に相談した所、ご縁が繋がり当社の名前を挙げていただけました。当社としては初の企業版ふるさと納税であり、また四国としても初の浄化槽物品寄附であったため、留意事項を確認し、市と連携しながら計画を進めていきました。
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写真-1 ビーチビレッジ石応の施設内 |
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3.制度活用にあたっての留意点
制度を活用するにあたって簡単な留意点をご紹介します。(※詳細については 企業版ふるさと納税ポータルサイト をご確認ください。)
●工事費用・送料は含まれない
企業版ふるさと納税による寄附は原則として現金での受領が望ましいとされています。これは物品寄附の場合、その価額を客観的に算定することが難しく、現金寄附と比較して寄附額の確定が困難であるためです。ただし物品による寄附が事業に欠かせない場合は、地方公共団体が第三者から当該物品を調達する場合に通常必要となる金額を基準として寄附額を算定することになります。なお、物品寄附の対象はあくまで「物本体」となり、設置にかかる工事費用(配管・電気・土木工事など)や送料は含まれません。これらの付帯費用については、寄附とは別に、事業主様側でのご対応をお願いする形となります。
●寄附を行うことの代償として経済的な利益を供与することの禁止
地域再生法施行規則 第13条では、「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附を行う法人に対し、当該寄附を行うことの代償として経済的な利益を供与してはならない」と明確に定められています。具体的な禁止事項は以下の通りです。
【禁止事項】 |
a. |
寄附を行うことの代償として、補助金を交付すること。 |
b. |
寄附を行うことの代償として、他の法人に対する金利よりも低い金利で貸付金を貸し付けること。 |
c. |
寄附を行うことの代償として、入札及び許認可において便宜の供与を行うこと。 |
d. |
寄附を行うことの代償として、合理的な理由なく市場価格よりも低い価格で財産を譲渡すること。 |
e. |
その他、寄附を行うことの代償として、経済的な利益を供与すること。 |
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(まち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関するQ&A(第15版)<事業実施・実施状況報告編>より引用) |
企業版ふるさと納税は、地域課題の解決やまちづくりに貢献できる、社会的意義の高い制度です。しかしながら、過去には寄附を通じて特定企業に経済的利益が還流する構図が指摘され、内閣府による認定取り消しや制度運営への厳しい批判が生じた事例もあります。こうした不祥事を防ぐためにも、制度を活用する際は制度の趣旨とルールを正しく理解し、社会通念に則った透明性の高い取り組みが必要となります。 |
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4.浄化槽学習イベントで地域の子ども達を招待
今回、企業版ふるさと納税で浄化槽を寄附するだけでなく、地域の方々にも浄化槽について知ってもらいたいという思いから宇和島市の小学生向けに浄化槽学習イベントを開催しました。宇和島市様にもご協力いただき、ビーチビレッジ石応がある地区から通う児童がいる鶴島小学校の4年生の皆さんをお招きすることになりました。
当社としては初の小学生向け浄化槽学習イベントでしたが、20代〜30代の若手社員が中心となり当日の資料作成や見学の流れ等を考えました。
「小学生向けの資料だからイラストをたくさん入れよう」
「先生らしさを出すために発表者は白衣を着て説明しよう!」
「浄化槽のカットモデルを運んできて見てもらう!」
「ろ材も手に取って見てもらうのはどうか?」
など柔軟なアイデアが生まれ、準備段階から活気にあふれていました。
浄化槽学習イベント当日は白衣を着た社員の説明に子どもたちは大盛り上がり。授業後の質問コーナーでは何人も手を挙げて質問してくれるほど興味をもってくれました。
「どうして水が綺麗になったと判断できるの?」「塩素の洗剤を流して微生物は死なないの?」
「ろ材はなんで黒いの?」
など、かなり鋭い質問をする児童もおり、子ども達の好奇心には驚かされるばかりでした。
授業の後は家庭用浄化槽のカットモデルやビーチビレッジ石応に地上設置された浄化槽を見学しました。スライド上の写真で見るだけでなく、実際にその大きさを体感することで、より鮮明にイメージを持ってもらえたのではないかと思います。
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写真-2 浄化槽学習イベントの一風景(1) |
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写真-3 浄化槽学習イベントの一風景(2) |
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5.社員のモチベーションUPにもつながった工場見学
浄化槽学習の後は弊社津島工場に移動し、工場見学を行いました。
津島工場では大人向けの工場見学は行っていたものの、子ども向けは初の試みであったため、工場メンバーが「どのように安全に、楽しく工場を見学してもらおうか」とアイデアを出し合いました。
当日は立ち入り禁止区域をしっかりと作るなど安全確保した上で円筒槽の脱型を見てもらったり、ガラス繊維を触ってもらったりする体験型学習を多く取り入れました。
巨大な浄化槽が型から外れた瞬間には子ども達の元気いっぱいな声が工場全体に響き渡り、工場のスタッフも「歓声をあげる子ども達の姿に、ものづくりの楽しさを改めて実感しました。」「ガラス繊維を触る時の真剣な顔や笑顔に、元気をもらいました。」とモチベーションがUPしたようです。
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写真-4 工場見学の一風景 |
工場見学の後は工場事務の方の「過去に小学校で工場見学に連れて行ってもらった時に、ジュースを飲ませて貰ったことが今でも凄く思い出に残っている」という意見から、地元特産のオレンジジュースをふるまい、一日の学習イベントの締めくくりとしました。 |
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6.地上設置の浄化槽に彩りを
今回、ビーチビレッジ石応に寄附したのは地上設置型の浄化槽です。
施設の横にあるクリーム色の巨大なタンクは、浄化槽を知らない人にとっては「あれは一体何だろう?」と奇妙に思われるかもしれません。
そこで学習イベント終了後、今回の経験を通じて学んだことをイラストにしてもらう授業を行っていただき、そのイラストをシールにして浄化槽に貼り付けることにしました。
子どもたちが描いた色鮮やかなイラストの中には魚などの生き物とともに浄化槽が描かれており、学習イベントを通じて水の大切さや自然環境を守ることの意味をしっかりと理解している様子が伝わってきました。
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写真-5 浄化槽の外観 |
子どもたちのイラストを貼った浄化槽が地域の一部になり、見る人を笑顔にしてくれることを期待しています。 |
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7.最後に
今回、弊社のふるさと納税を活用した浄化槽の寄附と、それに続く浄化槽学習イベントをご紹介させていただきました。
浄化槽は普段地面の下に埋まっており、水処理業界にいる人でなければ、あまり馴染みがない存在かもしれません。しかし、実際には下水道がない地域の水環境を守る縁の下の力持ちであり、我々の生活に欠かせない存在です。
このような取り組みを通じて少しでも多くの地域の方に浄化槽の役割や大切さに目を向けていただき、単独転換を含む浄化槽整備が推進されることを期待します。そして、こうした学びの機会が未来の環境を守る一歩につながることを願っています。
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写真-6 イベント終了時の集合写真 |
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(株式会社ダイキアクシス 経営企画部) |
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