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敷島 哲也 |
(一社)浄化槽システム協会講師団 |
(月刊浄化槽 2025年1月号) |
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1. はじめに
環境省の「令和4年度における都道府県別浄化槽の設置状況等」によれば、令和4年時点での建築用途別の浄化槽設置割合では住宅施設関係が76.7%と8割近くを占めており、続いて事務所関係2.9%、店舗関係2.6%、作業所関係2.1%と続いています。また、「構造基準・人槽別浄化槽設置基数 (令和4年度末)」では、総設置基数7,516,864基に対し、5〜20人槽までが6,913,790基(91.98%)、21人槽以上が603,074基(8.02%)となり、101人槽以上を大規模浄化槽と見なした場合、101人槽以上は89,795基(1.19%)となっています。現在設置されている浄化槽の主たる建築用途は住宅施設関係であり、設置基数で見た場合は20人槽までの小規模浄化槽がメインになっています。
小規模浄化槽についてはこれまでに全国浄化槽推進市町村協議会の「浄化槽施工基準策定マニュアル(案)」や(一社)浄化槽システム協会の「浄化槽ハンドブック」等で計画の仕方などが多く紹介されていますが、大規模な浄化槽については設置基数が小中規模に比べて圧倒的に少ないことなどからその計画方法などを目にすることはほとんどありません。
弊社は事務所や工場、展示場、病院など事業系の建築用途の浄化槽を数多く手掛けてまいりました。また、人槽規模も51人槽以上を得意とし1,000人槽を超える規模についても数多くの実績を重ねて参りました。本稿ではこれまでの経験から大規模浄化槽の計画を進める際に注意するべき点についてまとめてみました。
2. 人員算定と汚水量の推定
浄化槽を設計するには、対象となる建築物から排出される汚水量及び水質を把握し、浄化槽の規模を設定する必要がありますが、新設の建築物の場合には実際の排出量を調査することは不可能であるため、「建築物の用途別による屎尿浄化槽の処理対象人員算定基準(JIS A 3302-2000)」(以下 人員算定基準)に基づいて浄化槽の規模を設定することになります。
しかし、建築物用途毎の汚水排出の実態は業種や業態、地域性の多様化から、この人員算定基準と合致しないケースも多々あります。その場合には但し書きにある「建築物の使用状況により、類似施設の使用水量その他の資料から表が明らかに実情に添わないと考えられる場合は、当該資料などを基にしてこの算定人員を増減することができる」に従って算定し、実態を予測することになります。
大型施設の場合、JIS人員算定基準による汚水量の算出結果は余裕を見込んだ結果となるため、計画給水量や類似建築物の汚水量の実態などと比較検討するし、実態に即した計画汚水量に絞り込む方向で話を進めることが多く見られます。この時、算出結果にある程度の余裕を持たせておくことを推奨します。それは、余裕があれば、その後の一度は出てくる計画変更で増になった場合でも増加分を吸収できますが、余裕が無いと計画変更の度に大変な労力の図面修正作業が発生するためです。
3. 規模が関わる届出について
大規模浄化槽の設置計画に際しては、浄化槽法以外の届け出が発生する場合があります。
【特定施設設置届(水質)】
浄化槽の人槽が501人以上(指定地域にあっては201〜500人槽も指定地域特定施設として適用)の規模の場合には水質汚濁防止法第5条及び同法施行令3条の適用により工事着手の60日前までに都道府県知事に対し特定施設設置の届出をすることとなっています。特定施設の浄化槽は水質汚濁防止法に基づく排水基準が適用され、特に総量規制の対象となる指定地域(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海)においては厳しい水質規制があるため浄化槽の選定には注意を要します。水質基準は原則として日平均汚水量が50m3/日を超える場合に適用されます。
【特定施設設置届(騒音)】
7.5kW以上の空気圧縮機、送風機等を設置する場合は工事開始日より30日前までに都道府県知事に対し特定施設設置の届出をすることとなっています。尚、条例によって上乗せ基準があるので注意を要します(3.7kW以上が対象など)。同じ条件で振動規制もありますが、送風機は対象外です。
【都市計画上の位置制限】
都市計画区域内で処理能力3,000人を超える場合(総合的設計による一団地内の住宅施設の場合は10,000人)は、建築基準法第51条の規定の適用があり、都市計画決定又はただし書きの許可申請が必要となります。
届出に関する一覧表を下記に掲載します(弊社浄化槽ハンドブックより)
4. 排水時間、ピーク係数
大規模浄化槽においては1日の汚水量及び汚濁濃度の負荷変動を緩和し、安定的に汚水処理を行うために流量調整槽が必須となります。流量調整槽の大きさを決定付ける要素としては、汚水量だけでなく予想される時間最大流量変動係数やピーク継続時間、排水時間、流量調整比などが挙げられます。これらの要素については、事業所であれば事務員や作業員の出勤形態(昼時間帯のみか2〜3交代制か)、休憩時間、食堂の運用実態について深く掘り下げて確認することをお勧めします。大規模な店舗などでは営業時間の把握や来客の動向なども重要な情報です。
5. 処理方式の選定
特定地域など厳しい水質規制がかけられている地域では、高度処理型を要求される場合がほとんどであり、自ずと構造基準の第11の構造や、高度処理型の大臣認定浄化槽となります。また後述しますが大規模浄化槽では未処理排水の放流による環境への影響が中規模以下に比べて非常に大きくなることから、所期性能を発揮するまでの立上り期間が短い浄化槽であることも選定の条件になることが多いです。
尚、工場などでは地域によっては更に終末処理場が設置されているためにそれほど厳しい水質規制が求められないケースもあります。
6. 供用開始からの実負荷量
大規模な浄化槽の場合、1系列での処理では無く複数の系列に分けて設計する場合があります。系列の数の決定は、その処理方式の認定取得時の条件(1系列は○○m3/日以下とすることなど)や、その案件での設置後の運用方法によって判断します。新設の大規模浄化槽では、建築用途によっては運用開始から直ちに計画通りの汚水量が入らないケースがあります。
事例として、新しい施設への移行計画などの事情により、計画の1/5〜1/10以下の日平均汚水量が供用開始から半年から長い場合は数年続いた現場がありました。この場合に複数系列になっていれば1系列当たりの負荷率は2〜5割程度(過去実績による)を確保でき、所期性能を発揮することが可能となります。
大型商業施設や展示場、遊園地などでは、オープン時やイベント時の来場者による汚水量が、通常の算定から計算した計画汚水量の数倍に膨れ上がる場合があります。こうした場合は仮設の貯留槽を一時的に設けたり、浄化槽の前段に予備調整槽を設ける等の対応が必要になります。体育館や催事場など汚水量の週間変動が大きい場合には、例えば土日のピークを平日の汚水量が少ない日に割り振って処理する計画を立てる方法もあります。
7. 冬期対策について
浄化槽は全地下構造で施工されるのが一般的ですが、大きな工場に設置する場合は水槽の六面管理をするために地上式を指定される場合があります。その場合問題になってくるのが冬季の槽内水温の維持です。特に高度処理が求められる地域の場合、窒素除去を確実に行える水温の維持を要求されることがあります。確実に硝化脱窒を行える水温を指定されたケースもありました。対応策の事例としては、FRP槽であれば躯体に保温処置を施すことが考えられますが、RC造の場合には反応槽に水槽用ヒーターと温度制御用の水温計を設置し、冬季に一定の水温を維持する場合があります。注意点としては水槽用ヒーターは多くの場合浄化槽での使用を前提としていないため、その運用方法については事前によく協議しておく必要があります。
8. 汚泥搬出の件
大規模浄化槽を計画する際には、発生する汚泥の処分計画についても予め確認しておく必要があります。計算上の1日の汚泥発生量を把握しておくのはもちろんのこと、その地域での1日の受け入れ可能汚泥量の把握、関連行政窓口や清掃業者への確認や協議も必要です。受け入れが難しい場合には、汚泥濃縮設備を検討する必要も出てきます。
9. 客先仕様の考慮
一般的には国土交通省・環境省令で定める「浄化槽工事の技術上の基準」に従って浄化槽を設置しますが、公共工事ではその自治体独自の仕様が存在する場合もあるため、各自治体の浄化槽に関する条例や要綱を精査する必要があります。
民間工事の場合、特に製造業の事業所ではJISなどの公的な仕様と同等かそれ以上に厳しい独自の仕様を定めている場合があるので注意が必要です。多くは安全管理や保守運用に基づいて定められていることがほとんどであり、感電防止、事故発生時の動力遮断、回転物からの保護が主です。
例としては次のようなものがあります。
【機械設備】 |
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指巻き込み防止のベルトカバー。シャフトガード保護板付など |
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機器に対して手元スイッチの設置
制御盤と機器が離れている場合。メンテナンス中に誤操作で運転できないようにするため |
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ポンプは原則として陸上ポンプ(水中ポンプを禁止している場合も)
理由:点検作業時の落下等の危険を無くすため。 |
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機器には原則として予備機を設ける。機器によっては協議で免れる場合もあります。
理由:機器に異常が発生しても正常な運転を維持するため。 ほか |
【電機設備】 |
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受電部保護プレート |
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操作回路は原則24V(感電軽減) |
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非常停止回路、緊急停止ボタン設置 |
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インターロック組込み |
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リングガードボタンの設置(誤操作防止) |
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中央監視室への浄化槽状態信号の出力(監視盤の追加) ほか |
【配管設備】 |
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配管材料、施工方法の指定 |
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バルブ類の材料、種類の指定 |
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通常槽内に設置されるバルブ類を配管をスラブ上まで立ち上げ、立ったまま無理なく操作できる高さにバルブを設置する。 ほか |
【計装設備】 |
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必要な箇所に水質測定器を設置する。MLSS計(処理方式による)、ORP計、DO計、pH計など |
【その他設備】 |
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薬注設備
薬液タンクには、屋外設置とするか、ガス抜き管を付けるなど、タンクからのガス発生を考慮した対策をする
タンク最低容量の指定(ローリーでの補充)
薬品補充を補佐する設備(レベルスイッチと警報など)
安全防護のための洗眼器やシャワーの設置 |
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開口部分からの落下防止策 |
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点検蓋の重量制限 |
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流入水自体に問題が発生した時に汚水を一時貯留する水槽を設ける(浄化槽工事範囲外の場合がほとんど) |
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水質不適合時の対策として1〜3日分の放流水を貯留できる水槽を設置(浄化槽工事範囲外の場合がほとんど) |
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上記2項目の制御系の依頼 ほか |
仕様の入手方法は取引業者としての登録が必要であったり、設計協力時に施主から提示がある場合など様々ですが、いずれにせよ早い段階で入手して内容を把握し、浄化槽の仕様に組み込む必要があります。また、施主に独自仕様が無くても、元請けの建設会社やプラントメーカーの仕様を組込む場合もありますので注意が必要です。
10. 試運転と引き渡し
浄化槽の試運転は施工要領書や試運転要領書に則って行います。所定の水位まで水張を行い、試運転要領書のチェックリストを元に各機器の電源を入れ、回転方向が正常か、異常な騒音や振動なく稼働しているかどうかを確認します。また各単位装置も正常に機能しているか、制御盤も正常に制御できているかどうかを確実に確認します。試運転が完了したら所轄関係官庁の竣工検査を受けた後に客先へ引き渡します。契約内容によっては3カ月程度の実汚水による試運転調整を行い、水質計量証明書を添えて引き渡すことがあります。客先によっては試運転調整期間が1年に及ぶ場合もあります。
大規模物件では完成後直ちに運用開始するとは限らず、施設全体が完成、運用開始となるのに数年のブランクが空くケースもあります。こうした場合は機器の動作確認程度で一旦試運転を一旦契約から外し、改めて運用開始のめどが立ったころに試運転の契約を結ぶことがあります。
大規模浄化槽の場合は運転立上げ時のシーディングが大きな問題となります。特に厳しい水質規制がある地域では短期間で性能が立ち上がることを要求されますので、事前にシーディング汚泥を確保できるかどうかの確認をすることは重要です。設計段階で設計事務所や施主を通じて、地域の行政窓口、清掃業者と協議する必要があります。こうした問題からも、大規模浄化槽では自ずと処理方式が決まってくる場合があります。膜分離活性汚泥法の場合はシーディング汚泥が確保できれば、立ち上がりに関しては圧倒的に優位になります。
11. さいごに
今回本稿の執筆に際しては、施工要領書や試運転要領書に記載されているような一般的な注意事項については省かせて頂き、過去の経験から知りえたことを主体にまとめました。大規模浄化槽の計画を進めていく中でおおよそぶつかるであろう問題を列挙いたしました。ノウハウに掛かるところは掲載していませんので抜けの多い文となった印象が強いですが、読まれた皆様が計画に携わる際の参考となれば幸いです。 |
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参考文献
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浄化槽の設計・施工上の運用指針2015年版 編集:国土交通省住宅局建築指導課・日本建築行政会議 |
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浄化槽の構造基準・同解説(1976年版〜2006年版)(一財)日本建築センター |
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月刊浄化槽2012年2月号JSAだより「浄化槽の人員算定」拙著 |
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月刊浄化槽2012年12月号特別企画「ショッピングセンターの浄化槽」拙著 |
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月刊浄化槽2014年9月号JSAだより「浄化槽の人員算定(2)」拙著 |
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月刊浄化槽2020年11月号JSAだより「JIS A 3302-2000」のただし書きの運用事例 拙著 |
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令和5年度版 浄化槽普及促進ハンドブック (一社)浄化槽システム協会 |
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(藤吉工業(株) 本社事業本部設計部) |
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