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塚本 幸二 |
(一社)浄化槽システム協会講師団 |
(月刊浄化槽 2023年11月号) |
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1.はじめに
生産性を伴う現場や工事現場でおなじみの「安全第一」は、聞き慣れたスローガンと思いますが、実はそれには続きの言葉があることをご存じでしょうか。
「安全第一」という考え方が生まれたのは、1906年で当時のアメリカの工場では「生産第一・品質第二・安全第三」をスローガンとして、安全性よりも生産性が重視されていたために労働災害が日常的に起きており、この状況を打開するために、スローガンを「安全第一・品質第二・生産第三」に変更したところ、労働災害が減少し、作業効率、生産性や品質までも向上することができ、現在では、安全第一というスローガンがさまざまな現場に広く浸透しています。
浄化槽の施工現場では、浄化槽設備士立ち合いのもと「安全第一」で作業が行われ、筆者が知る限りでは、重大な労働災害となる事例はこれまで聞いておりませんが、地山やのり面の崩壊及び重量物移動時の落下等により、場合によっては死亡にいたるケースが考えられます。
そこで、筆者の考えになりますが、浄化槽工事の工程で、最も死亡リスクが高いと考えられる掘削作業に関連する災害について、土砂崩壊による死傷災害の発生状況、地山やのり面の崩壊事故の原因及び防止策等について、記載します。 |
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2.災害発生状況と浄化槽工事における掘削深さ
浄化槽工事における掘削作業に関連する災害としては、土砂崩壊による死傷災害が考えられます。
そこで、土砂崩壊による労働災害の死亡者数の発生状況を調べたところ、図-1,2の労働安全衛生総合研究所の調査(1985年から2018年)では、死亡者数は、2005年以降横ばい状態が続き、工事別の内訳としては、溝掘削工事が51.8%、斜面掘削工事(道路工事や土地造成工事等で地山や盛土を掘削する工事)が38.2%、トンネル建設工事が6.3%でした。溝掘削工事中の死亡者数が最も多い割合を占めていることから、溝掘削工事が危険な作業であることがわかります。全体の傾向として深さ2.0m程度での死亡災害が最も多く、浅いところではわずか0.5mの掘削深さでも死亡災害が発生していると報告されておりました。図2からは、ほぼ80%が1.5〜3.25mの掘削深さで死亡災害が発生していることがわかります。これは、掘削深さが浅いために安全対策が疎かになってしまっていたと考えることができます。
近年(2019〜2021年)の土砂崩壊や落盤による死亡者数は、2019年:10人、2020年:12人、2021年:15人(各年、建築設備での死亡者数は、0人)で毎年10〜20人前後で推移しており、死亡災害がゼロにはならないのが現状です。
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図-1 工事別の土砂崩壊による労働災害の死亡者数の推移(1985〜2018) 1) |
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図-2 溝掘削の深さごとの死亡者数 1) |
次に、浄化槽工事では、どの程度の掘削深さになるのかをみていきましょう。表-1は、現在発売の浄化槽の高さを設置基数の多い人槽ごとに掘削深さをまとめたものになります。底板や嵩上げを含めると、最小で概ね1.5mから最大で概ね3.2mとなり、労働安全衛生総合研究所の調査結果の死亡者数の多い掘削深さにほぼ合致し、浄化槽工事での掘削作業にひそむ災害が死亡災害に直結する可能性があると考えられます。
表-1 人槽ごとの掘削深さ |
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浄化槽高さ |
底版100mm含む高さ |
嵩上げ300mm
+底版100mm含む高さ |
5〜10 |
1,365〜2,090mm |
1,465〜2,190mm |
1,765〜2,490mm |
11〜50 |
1,580〜2,810mm |
1,680〜2,910mm |
1,980mm〜3,210mm |
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3.土砂災害の死亡の原因
土砂災害は、地山及びのり面の崩壊によって発生しますが、労働安全衛生総合研究所の分析によると、以下(図-3)の4種類の崩壊パターンがあり、いずれも地山及びのり面が荷重に耐え切れず、土砂が剥離し滑りおちる現象で発生し、全体の85%の災害ですべり面の一部に埋戻し土が認められるとのことでした。もちろん、建設機械の重量、振動や地下水脈の影響での崩壊もあると考えますが、過去の土工事によって地盤が弱くなっていたことが崩壊の要因となっているようですので、過去の掘削の状況等は事前に調査が必要であるといえます。また、土留め未設置であると、地山及びのり面の崩壊を防止できず、結果的に死亡災害につながりますので、土留めの省略が災害の主因となると考えられます。
・表層すべり型 |
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・剥離倒壊型 |
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・滑動又は円弧すべり型 |
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・落下型 |
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図-3 土砂災害の崩壊パターン 2) |
以上から、掘削工事での災害を防止するには、事前の調査と土留め等の防護対策をしっかり実施することが必要であるといえます。 |
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4.掘削工事の災害防止に関する法令
掘削工事の災害防止に関する法令等は、建築基準法施行令や労働安全衛生規則に記載があります。ここでは、浄化槽設置工事にも関連する掘削工事での災害防止の決め手となる土留めに関する法令についてみていきます。
建築基準法には、施行令第136号の3に根切り工事、山留め工事等を行う場合の危害の防止について、以下の記載がされています。
建築基準法施行令第136条の3 根切り工事、山留め工事等を行う場合の危害の防止 |
建築工事等において深さ1.5m以上の根切り工事を行なう場合においては、地盤が崩壊するおそれがないとき、及び周辺の状況により危害防止上支障がないときを除き、山留めを設けなければならない。この場合において、山留めの根入れは、周辺の地盤の安定を保持するために相当な深さとしなければならない。 |
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つまり、掘削の深さが1.5m以上の場合には、土留め工を施す必要があるというものです。
また、同様の内容で土砂崩壊災害の防止を図る目的で2003年12月の厚生労働省労働基準局長より、土止め先行工法に関するガイドラインが発出されています。その内容は、上下水道等の工事の機械掘削又は手掘りのいずれにおいても掘削深さが概ね1.5m〜4mで掘削幅が概ね3m以下の溝をほぼ鉛直に掘削する場合、土止め先行工法を推奨するというものであり、掘削深さ1.5m以上での土止め設置の指導がされています。浄化槽工事においてもガイドラインに沿った土止め工を実施し、災害防止に努めることが必要といえます。 |
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5.安全な掘削工事を行うための資格
掘削工事を行う場合は、以下の作業主任者を選任し、器具・工具の点検、作業方法の決定、現場の指揮を行い、労働災害を防止する必要があります。必要な作業主任者の資格は、以下の2つとなります。
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地山の掘削作業主任者:掘削面の高さが2メートル以上になる地山の掘削作業を行う時 |
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土止め支保工作業主任者:土止め支保工の切りばり又は腹おこしの取付け又は取りはずしの作業時 |
また、掘削作業では、掘削機の操縦も必要な資格です。施工の規模により、次の免許や講習受講等が必要となります。
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大型特殊免許 |
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小型車両系建設機械(整地・運搬・積込・掘削)特別教育
機体質量が3トン未満の車両系建設機械のうち「整地・運搬・積み込み用」及び「掘削用」の機械で動力を用い、かつ不特定の場所に移動できるものの運転(道路上を走行させる運転を除く)の業務。 |
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車両系建設機械技能運転講習(整地・運搬・積込・掘削
機体重量が3トン以上の整地・運搬・積込用機械及び掘削機械で動力を用い、かつ不特定の場所に自走できるものの運転(道路上を走行させる運転を除く)の業務。 |
以上の資格は、安全な施工を行う上で必要です。小規模な浄化槽施工の掘削工事では、以上の作業主任者と小型車両系建設機械(整地・運搬・積込・掘削)特別教育が必要となると思われます。作業主任者になるには、講習と筆記試験にて資格を取得でき、小型車両系建設機械(整地・運搬・積込・掘削)特別教育は、講習の受講により、操縦することが可能となりますので、必ず、受講し安全な工事を行ってください。 |
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6.掘削作業に関する地山およびのり面の崩壊災害を防止するポイント
浄化槽設備士の役務にもなりますが、以下に、地山及びのり面の崩壊災害を防止するポイントをまとめます。
(1)事前調査の実施
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土質や湧水の調査
土質(過去の埋設土使用等含む)や湧水の状況により、土留め支保工の必要性や、掘削工法を検討すること |
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地下埋設物の調査
作業中に地下埋設物を破損させないことと埋め戻しされている場所の確認をすること |
(2)施工計画の策定
事前調査に基づき、掘削範囲、深さ勾配を検討し、現場状況に適合した施工計画を策定すること
(3)作業時における安全対策
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施工計画に基づき、正しい掘削勾配で作業を行うよう作業員に周知徹底させること |
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浄化槽工事期間中、特に降雨、地震等があった場合は、土留め支保工の状況について入念に点検すること |
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土留め等がない掘削部には無防備な状態では入らないこと |
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7.おわりに
浄化槽施工で死亡リスクの高いと考えられる掘削作業に関連する土砂崩壊及び落盤に関する死亡災害の原因と防止策をみてきましたが、浄化槽設備士の重要性についても再認識いただけたものと考えています。
2017年以降、建築設備での死亡者数は、報告されていないようですが、ケガ程度の災害は、発生しているものと思います。浄化槽工事の掘削深さは、死亡事故の多い掘削深さに合致していますので、今後も継続して「安全第一」をスローガンに浄化槽設備士のもと、安全で正しい施工がされるように願っています。
参考文献
1) |
出典:労働安全衛生総合研究所 − 溝掘削工事の土砂崩壊災害 |
2) |
出典:労働安全衛生総合研究所 − 溝掘削工事における土砂崩壊による死亡災害の分析 |
3) |
建設業労働災害防止協会 − 建設業災害統計資料集 |
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((株)ハウステック 住機環境事業企画部) |
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