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北沢 智秀 |
(一社)浄化槽システム協会講師団 |
(月刊浄化槽 2023年3月号) |
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1.はじめに
保守点検の目的は、設備機器の機能を維持する事にあり、機能維持を阻害する要因には、電気設備機器及び制御盤の電気的・機械的不具合も含まれる。
電気設備機器は、正しく保守をしていても使用年月と共に、次第に劣化し絶縁抵抗が低下する。絶縁低下が進むと漏電を起こし、故障や感電・火災の危険性が高まる。浄化槽の環境は、気温・湿度や塵埃、腐食性ガスの発生等決して良い環境とは言えず、塩害や積雪地域等、地域特有の環境についても考慮した上で管理をしなければならない。
本稿では、浄化槽設備関連で必要となる資格の紹介と、安全管理上の注意点、電気設備機器増設時の注意点、保守点検時の注意点について電気点検を主体に述べる。 |
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2.浄化槽関連で必要となる電気関係の資格と特別教育
浄化槽に関する資格には浄化槽設備士や浄化槽管理士があるが、電気設備機器の更新や制御盤の改造を行うには電気関係の資格が必要である。以下に電気関係の資格の概要を説明する。
2.1 電気工事士 1)
電気工事士は経済産業省管轄の資格で、電気設備の工事・取扱業務に必要な国家資格である。第一種は、自家用電気工作物(600V超の最大電力500kw未満)、第二種は一般用工作物(600V以下)の工事を行う際に必要で、電気工事士法に違反した場合には、罰則が与えられる
浄化槽の保守点検の場面では、ブロワの交換で既設ケーブルを端子ボックスから外し、新設ブロワの端子ボックスに接続する。水中ポンプの交換で、ボックス内で制御盤からのケーブルと付属ケーブルとを接続する(または動力制御盤の端子から付属ケーブルを外し、新設ポンプのケーブルを接続する)といった施工では第二種電気工事士の資格が必要である。ただし、圧着端子を付けたケーブルをネジ止めで接続する作業は資格不要である。また、変圧器の二次側電圧が36V以下ではネジ止めだけではなく圧着端子の取り付け作業も資格が不要である。例えば、変圧器の二次側に24Vのフロートスイッチ用の電源ブレーカを追加する工事がそれに該当する。2)
2.2 電気工事施工管理技士 3)
電気工事施工管理技士(1級、2級)は国土交通省管轄の資格で、電気工事の施工計画の作成、工程・安全・品質の管理・監督等を行う業務に必要な国家資格である。請負金額に応じて主任技術者または監理技術者を現場に配置する必要がある。従事可能な業務内容を表-1に示す。
表-1 電気工事施工管理技士の従事範囲 |
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請負可能な工事規模(建設業許可) |
現場従事可能な技術者 |
1級 |
一般建設業又は特定建設業の営業所における選任技術者 |
監理技術者・主任技術者 |
2級 |
一般建設業における選任技術者 |
主任技術者 |
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2.3 低圧電気取扱業務特別教育 4)
低圧電気取扱業務特別教育は、厚生労働省管轄の資格である。労働者の安全と健康の確保を目的とし、感電災害による死亡者を0にする為、電気工事士の資格の有無に関わらず低圧電気取扱業務を行なう場合は受講する必要がある。 |
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3.安全管理上の注意点
動力制御盤の盤用部品と電気設備機器の二つに分け、安全管理上の注意点について述べる。
3.1 動力制御盤
@ 端子部の増し締め
現場にて端子台二次側に動力ケーブル等を配線する際に締め付けを行うが、必ずマーキングし、ブレーカや電磁開閉器等盤内取付機器の端子部でも同様にネジは次第に緩むので、定期的にチェックを行なう。
A 電流計の赤針の確認
動力機器は定格電流値が設定されている。制御盤の電流計が赤針付きの場合は、赤針が定格値に設定されているか確認し、電源投入後に黒針が赤針以下で触れている事を確認する。
B サーマルリレー(熱継電器)の確認
機器の始動前にサーマルリレーの設定値が正しいか確認をする。多くのメーカーでは、モーター負荷の定格電流値(100〜105%)を推奨している。モーター焼損の保護から、初期設定値としては定格電流値で設定するのが基本である。(写真-1) 通常運転にてトリップを繰り返す様なら105%迄上げる事も検討に入れても良い。但し、電流値が上がる原因を突き止め、改善しなければならない。
C 線名札(行き先表示札)の取り付け
図面に記載している記号/行き先とケーブルの種類/サイズを線名札に記入する。(写真-2)
スペースが有れば施工日も入れ、ケーブル更新時期の目安とする。
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写真-1 サーマル整定値の設定 |
写真-2 盤内線名札の取り付け |
D 設備機器の製造銘板の貼り付け
製造銘板には、機器の型番や製造日、機器容量等重要な情報が記載されており、機器のメンテナンスや更新の目安となる。水中ポンプのように通常時確認が難しい機器は、予備銘板を制御盤の扉裏面に貼り付けて確認が出来る様にしておくとよい。
E 盤製作図の管理
工事完了時は、制御盤の図面ポケットに盤や工事の完成図を保管し、改修工事があった場合は、速やかに修正図面に差し替える。図面修正を怠ると、次に改修をする時に、ミスを起こす原因となる。
3.2 電気設備機器
@ 処理槽内ケーブルの処置
水中ポンプや水中ミキサ、計装機器のセンサ等、槽内に設置する機器は、プルボックスと機器間のケーブルに余長を持たせ、槽内に取り付けたフックに巻き付ける。ポンプ等を引き上げる際には、ケーブルの巻き込みや断線を起こさない様に注意し、巻き付けの輪の大きさや回数を調整、確認をしてから現場を離れる。
A 電磁式ブロワのケーブル処置
電磁式ブロワの電源は、通常1.5m程度の付属ケーブルの先にプラグが付いた構造となっており、ケーブルの摩耗等の保護からスパイラルチューブを巻き付ける事が望ましい。尚、積雪地域や塩害地域では、屋外コンセントを取り付けず、制御盤下部から立ち上げ、端子に直接接続する方法を推奨する。
B コンセント
屋外や屋内でも湿気がある場所で使用するコンセントは、防水型とする。盤内コンセントがある場合は、上限容量又はパソコンのみ接続可等の警告をテプラ等で貼る。
C プルボックス
屋外では、溶融亜鉛メッキかステンレス製のプルボックスが一般的だが塩化ビニル製でも耐候性が高いものもある。構造としては被せ蓋を使用し、下部には水抜き用の穴を開ける。屋内では、異種金属管との接続による電食に注意すれば材質の縛りは無い。処理槽の開口内に設置する場合は、ゴムパッキン付きの防水仕様を選定する。ボックス内は、ケーブルに線名札を付けコネクタとの隙間を電気絶縁パテでしっかり埋め、制御盤へ槽内のガスが拡散するのを防止する。(写真-3)
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写真-3 プルボックス内線名札と電気絶縁パテ |
D 初期設定値や校正時期の記録
動力機器・計装機器等の設置時期やフロートスイッチ・電極棒の設置高さをリスト化し管理する。機器を校正したり、フロートスイッチ・電極棒の長さを変更した場合は、変更履歴を残す。 |
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4.電気設備機器の増設・更新時の注意点
4.1 電気設備機器増設時
機器を増設する場合は、盤内に新たにブレーカを増設するスペースを確保し、対象の上位のブレーカ容量が同等以下になる場合には、上位のブレーカも変更を行う (保護協調)。
4.2 電気設備機器更新時
既設と別の機種に更新する場合、同容量でも定格電流値が異なる場合がある。また、同機種でも後継機種でモーターが高効率モータ(IE3)に代わる場合、定格電流値が上がる事があり、サーマルの設定範囲を確認する。長期使用のケーブルは機器更新と合わせて更新することが望ましい。更新の目安として、ケーブル・電線と盤用部品の耐用年数を表-2に示す。
表-2 ケーブル・電線と盤用部品の耐用年数 5) |
機器名称 |
耐用年数 |
機器名称 |
耐用年数 |
IV線/CV・CVVケーブル
(屋内電線管内/盤内配線) |
20〜30年 |
IV線/CV・CVVケーブル
(屋外電線管内敷設) |
15〜20年 |
屋内設置の制御盤 |
15〜25年
※設置環境により大きく変わる |
屋外設置の制御盤 |
15〜20年
※設置環境により大きく変わる
(塗装は数年単位で塗り直し) |
変圧器 |
20年 |
ブレーカ/コンデンサ/避雷器 |
15年 |
電圧計・電流計 |
10年 |
フューズ/電磁開閉器・接触器 |
10年 |
タッチパネル |
10年 |
シーケンサ/リレー/タイマー |
10年 |
押釦スイッチ |
100万回 |
切替スイッチ |
50万回 |
照光式スイッチ |
50万回 |
LED表示灯 |
50000時間 |
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5.保守点検時の注意点
5.1電動機の保守点検
電動機は、保守点検で不具合を早期に発見し、対策をとることによって長期間安全に使用することができる。点検項目には電流値と絶縁抵抗値がある。表-3に各測定値の許容範囲を示す。
@ 電流値
電流値は、機器の使用電力量の指標となる。異常な電流値が検出された場合は、機器の稼働状況及び配線不良を疑い、原因を究明しなければならない。電流計が無い場合はクランプメーターを使用し、各負荷の導体1本毎にクランプコアの空間に挟み込み測定する。(写真-4)
電流値が上がった場合は、機械的な部分(主にベアリング関連)、下がった場合は流体(主に羽根車関連)に関する部分について異常がないか確認する。
A 絶縁抵抗値
絶縁抵抗値の低下は、電気機器の不良及び感電事故の原因となる。測定にはメガー(絶縁抵抗計)を使用し、配線路の電源を切った状態で端子台の各相間を測定する。(写真-5)
絶縁不良がある場合は、ケーブル又は機器本体の異常が考えられる為、端子部がある機器は改めてその部分で測定し、ケーブルと機器本体のどちらに原因があるか切り分ける。端子の無い付属ケーブル接続の機器は、プルボックス内の接続箇所で測定をする事で原因の判断が出来る。
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写真-4 クランプメーターによる電流測定 |
写真-5 絶縁抵抗計による絶縁抵抗測定 |
表-3 電圧/電流/絶縁抵抗の許容範囲 6) |
測定対象 |
許容範囲 |
電圧 |
101V±6V、202V±20Vを超えない値(電気事業法 第38条)
実際には、2〜3%以内が望ましく5%を超える場合は、異常といえケーブルの確認が必要 |
電流 |
定格電流値以下 ※ 希に推奨電流値を設けている機器が有り、その場合は推奨電流値以下 |
絶縁抵抗 |
300V以下の対地電圧150V以下: 0.1 MΩ以上 |
新設時100MΩ以上/通常時1MΩ以上 |
300V以下の対地電圧150V超過: 0.2 MΩ以上 |
新設時100MΩ以上/通常時2MΩ以上 |
300V超過: 0.4 MΩ以上(電気設備技術基準58条) |
新設時100MΩ以上/通常時4MΩ以上(実際の点検基準参考値) |
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5.2 作業上の注意
@ 電動機や電路に触れる場合
セレクトスイッチやブレーカを切ってから作業をする。特に濡れた手で作業をすると皮膚の電気抵抗が下がり、人体に電気が流れやすくなる為、乾いた手で作業をする。絶縁手袋を付けての作業が望ましい。盤と現場が離れている場合、マグネット標識等で、作業者以外にも注意を促し、安全を確保する。
A 電源投入中の作業
セレクトスイッチの制御やタッチパネルや指示計の設定値を変えて、不具合等の確認をする場合は、写真やメモを取り、設定値を忘れない様にする。外部警報端子を有し、中央監視等へ警報出力している場合は、作業前に管理者等へ作業中に警報が出力してしまう可能性がある事を伝える。一括故障のリレーがある場合は、リレーを外すか警報線を端子から外す事で出力されなくなる。
B 警報発信後の対応
タッチパネルが付いている場合は警報履歴を確認する。付いていない場合は、故障ランプ、漏電遮断器やサーマル等で、何がトリップしているか確認をし、原因(漏電/過負荷)にあった対処をする。
C 作業後の確認
定期点検や警報等の不具合対応で、各機器の電源等を切っている場合は、作業終了後必ずブレーカやセレクトスイッチを復帰させる。一括故障のリレーを外したり、タッチパネルで警報出力を無効にしている場合は、元の状態に戻す。タッチパネルの設定値や計装機器等の設定を変えて作業をしている場合も、元に戻す。設定値を変えて、様子を観る場合にはリスト化し、管理する。 |
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6.おわりに
感電に起因する死亡災害は、1972年に労働安全衛生法が施行され、労働安全衛生規則による漏電遮断器設置の一部義務化や、電気関連作業の安全化策が推進された結果、年々減少し、現在では概ね10〜20件となっている。しかしながら、感電災害では、休業4日以上の死傷者数に占める死亡者の割合が10%強に上り、労働災害の中でも「致死率が高い」災害と言え、しっかりとした防災対策を講じる必要がある。有資格者により正しく施工され、適切に管理される事により、感電・火災等の事故を防ぎ、浄化槽設備が正しく機能する為の参考として戴きたい。 |
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((株)西原ネオ 技術部) |
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