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窒素リン除去型浄化槽CRXU型の特徴、
市場での水質評価と水環境の保全に向けて
水野 真一 (一社)浄化槽システム協会講師団 (月刊浄化槽 2022年7月号)
1. はじめに
2. 鉄電解法を用いた窒素リン除去型浄化槽CRXU型の概要
3. CRXU型現場追跡調査の結果と考察
4. CRXU型の市場での水質評価
5. まとめ
6. 終わりに
1.はじめに

 令和2年度の湖沼における全窒素と全リンの環境基準達成率は、それぞれ23.8%、54.5%と低い値で推移しており、BODだけでなく窒素やリンを同時に除去できる浄化槽の整備が喫緊の課題となっている1)。このような閉鎖性水域の富栄養化の防止対策として、フジクリーン工業(株)は、BODだけでなく窒素やリンを同時に除去可能な家庭用浄化槽CRX型2, 3, 4)を2002年に発売し、これまでに約4000基を販売、設置してきている。
 また、環境省の調査報告書によると、低炭素社会対応型浄化槽の基準が定められた2008年以降、浄化槽由来のCO2排出量の削減が急速に進んでいる5)。リン除去型浄化槽についても消費電力基準が定められ、高度処理性能と省エネルギー化の両立が求められている。
 上記の点を踏まえ、フジクリーン工業(株)は、2016年11月に、CRX型よりも省エネルギーでランニングコストが低く、施工性と維持管理性を各段に向上させたCRXU型を新たに発売したところである6)
 本稿では、鉄電解法を導入した窒素リン除去型浄化槽CRXU型の構造と特徴、発売後の追跡調査結果、そして発売後4年間の7条検査および11条検査の結果による市場での中長期的な水質評価について報告する。
 
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2.鉄電解法を用いた窒素リン除去型浄化槽CRXU型の概要

1)処理フローおよび構造
 CRXU型浄化槽の処理対象人員は5〜10人であり、放流水質(性能評価値)はBOD;10mg/L以下、COD;15mg/L以下、SS;10mg/L以下、T-N;10mg/L以下、T-P;1mg/L以下である。処理フローと構造を図1に示す。CRXU型は、一次処理に夾雑物除去槽と嫌気ろ床槽、二次処理に接触ろ床槽と処理水槽を採用している。処理水槽底部から夾雑物除去槽へ処理水を循環することで、硝化脱窒が行われる。また、循環水は、夾雑物除去槽に設けられたリン除去装置に流入する構造になっており、鉄電解法によるリン除去が行われる。
 CRX型は二次処理に担体流動生物ろ過方式を採用し、移送用、散気用、逆洗用の3系列の送気配管と3台のブロワを使用していたが、CRXU型では二次処理に接触ろ床方式を採用することで、送気配管1系列、ブロワ1台とすることが可能となり、施工性、メンテナンス性も大幅に向上させることができた。

2)リン除去装置の構造と機能
 CRXU型浄化槽は、鉄電解によるリン除去法を採用している(図2)。水中に浸漬された2枚の鉄板間に直流電源を接続すると、陽極から2価の鉄イオン(Fe2+)が溶出する。この2価の鉄イオンは循環水中の溶存酸素(O2)によって3価の鉄イオン(Fe3+)に酸化される。そして、水中のリン酸イオン(PO43-)と結合してリン酸鉄(FePO4)等のリン化合物が生成され、沈殿物として汚水から分離される。固液分離されたリン化合物は、夾雑物除去槽や嫌気ろ床槽で貯留される。
 リン除去装置の構成を図3に示す。リン除去装置は、制御ボックス、接続ケーブル、セル(5・7人槽:2セット、10人槽:3セット)から構成されており、鉄電極は固定ボルトを介してセルベース内で接続ケーブルと接続されている。制御ボックスは鉄電極へ一定の直流電流を供給するほか、鉄電極の陽極と陰極を入れ替える極性転換を行なったり、異常時の警報を表示したりする機能がある。また、パワー調整ダイヤルを備えており、電流値を6段階に設定できる仕様になっている。7人槽の標準設定であるパワー調整ダイヤル4の場合について、鉄電極の減少の状況を図4に示す。鉄電極は、交換頻度の8ヵ月が経過しても、電極の一部が脱落したりすることがないように設計されている。
 鉄電解法において、電極表面に酸化被膜が形成されると鉄の溶出が妨げられ、リン除去性能が著しく低下することが知られている。森泉らの研究により、鉄とリンのモル比(Fe:P)1.5以上、かつ電極間の電流密度を0.25〜200mA/cm2に設定し、極性反転を24〜120時間の間隔で行うことで安定したリン除去性能が得られることが明らかになっている7)。CRXU型では、標準的な使用条件におけるモル比を1.7、かつ電流密度を0.42〜1.06mA/cm2に設定し、24時間ごとに極性転換を実施することで安定的なリン除去を可能としている。

図1 CRXU型の処理フローと構造
 
図2 鉄電解法によるリン除去の原理
 
図3 リン除去装置の構成
 
図4 鉄電極の溶解状況
(7人槽標準設定で使用した場合)

3)CRXU型の省エネルギー性
 ブロワとリン除去装置を合せた消費電力は、5人槽;49W、7人槽;66W、10人槽;91Wであり、5人槽では従来のCRX型から約4割の削減を実現し、ランニングコストの大幅低減につながっている(図5)。また、全ての人槽で環境配慮型浄化槽(リン除去型)の消費電力基準(5人槽:83W、7人槽:90W、10人槽:157W)を大幅に下回り、5人槽では、省エネ基準から41%の削減を達成している。

図5 CRXU型の省エネ性
 
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3.CRXU型現場追跡調査の結果と考察

 東北、関東、中部の各地域に設置されたCRXU型の現場追跡調査(n=68、42物件)を実施し、浄化槽の設置状況、運転状況(循環水量、DO、pH、透視度、ブロワ風量、吐出圧、リン除去装置パワー目盛り、セル重量)の確認、処理水の水質分析を行った。
 全データ(n=68)の平均処理水質を表1に、正常な運転状況(n=37、循環水量の設定不良、リン除去装置設定ミス、結線ミス、立ち上がり前などを除いたデータ)における平均処理水質を表2に示す。
 表1と表2を比較すると、いずれの水質項目も改善されている。とりわけT-Nについては、30%近く適合率が改善していることが明らかとなった。このような性能の安定化は、主に保守点検時の逆洗、汚泥移送と循環水量の適正化によるものであり、目標水質を満足するためには、適切な維持管理の重要性が改めて示されたといえる。追跡調査時は上市後間もなく、維持管理業者の理解度が不十分な点もあったと思われるが、弊社では調査を進めていく中で維持管理講習会や現場での技術指導などの啓発活動を行い、適合率の向上に努めてきている。

表1 CRXU型の処理水質(全データ)
 
表2 リン除去型の処理水質(正常運転)
 
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4.CRXU型の市場での水質評価

 平成29年度、30年度、令和1〜2年度のCRXU型の7条および11条検査の調査、解析を行い、市場における性能を評価した。

1)BOD値の分布(7条検査)
 最もデータ数が多かった平成30年度7条検査の190件のデータのBOD分布を図6に示す。BODの平均値は7.9mg/L、目標水質である10mg/L以下の適合率は76.8%であった。2)で示すように2年目以降は年度ごとの適合率に大きな差はなく、他の年度もおおむね図6のような分布になっている。

図6 CRXU型7条検査のBOD分布

2)年度ごとの比較(7条検査)
 平成29〜令和2年度のCRXU型および平成25〜28年度のCRX型の7条検査の適合率と検査データ数を図7に示す。
 CRXU型の発売後間もない平成29年度ではBOD10mg/L以下の適合率は53.7%と低い値であったが、平成30年度では、適合率は76.8%と大幅に上昇し、以降は安定して前機種のCRX型と同等レベルとなった。これは29年度のデータ数が41と少なく、検査時期が年度後半の冬季に偏っていたこともあるが、維持管理講習会や技術指導の成果が数値として大きく現れてきた結果と考えられる。

図7 7条検査の適合率の推移

3)年度ごとの比較(11条検査)
 平成30〜令和2年度のCRXU型および平成25〜28年度のCRX型の11条検査の適合率と検査データ数を図8に示す。
 7条検査に比べ、データ数は少ないが3年間の適合率はほぼ同等の結果を得ることができ、長期的にもCRXU型の水質が安定していることが示唆された。

図8 11条検査の適合率の推移

4)市場での水質評価
 CRXU型は2年目の7条検査において前機種であるCRX型と同等の適合率を得ることができた。2年目以降の平成30年度から令和2年度まで、7条検査、11条検査とも良好な適合率であり、市場においても長期にわたって安定して目標水質を達成していることを確認することができた。
 
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5.まとめ

 窒素リン除去型浄化槽CRXU型の追跡調査を実施し、処理性能を確認した。また、7条検査、11条検査の結果から、市場における性能を評価した。
 追跡調査(n=68、42物件)では、正常な運転状態とすることですべての水質項目で適合率が改善し、処理性能が安定化した。目標水質を満足するためには、適切な維持管理の重要性が改めて示された。
市場における性能についても2年目の7条検査において適合率は76.8%となり、前機種であるCRX型と遜色のない結果を得ることができた。その後の7条検査、11条検査においても良好な適合率を維持しており、CRXU型が発売後4年間、継続的に水質を維持できていることが確認された。
 
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6.終わりに

 窒素リン除去型浄化槽(CRX型)が上市されてから20年が経過したが、その普及は、未だ十分とは言い難く、閉鎖性水域の富栄養化改善は進んでいない。今回報告したCRXU型は、CRX型と同等の処理性能を保ちながら、大幅な省エネルギー化を実現し、維持管理性と施工性も改善されている。今後、閉鎖性水域の富栄養化防止対策、国内外の環境保全対策の一つとしてさらに普及展開していくことが強く望まれる。
 
<参考文献>
1) 稲森悠平, 稲森隆平, 鮫島正一:窒素・リン除去型を中核とする高度処理浄化槽普及展開の再認識の必然性 水環境再生方策のための緊急政策提言, 用水と廃水, 59(4), 231-243(2017)
2) 井村正博, 鈴木栄一, 手塚圭治, 水野真一:窒素・リン除去型家庭用浄化槽, 環境技術, 30(9), 682- 689(2001)
3) 佐藤吉彦, 鈴木栄一, 手塚圭治, 水野真一, 井村正博, 北尾高嶺:担体流動生物濾過法に鉄電解法を組み込んだ方式による戸建て住宅生活排水の高度処理化, 水環境学会誌, 26(9), 601-606(2003)
4) 鈴木栄一, 井村正博:リン除去型家庭用浄化槽の施工・維持管理について, 月刊浄化槽2001年12月号 No.308, 31-38
5) 一般社団法人浄化槽システム協会, 平成29年度次世代浄化槽システムに関する調査検討業務報告書, 31-42
6) 田畑洋輔, Mみずほ, 市成剛, 後藤雅司, 徐開欽:鉄電解法を用いた窒素・リン除去型浄化槽の構造と処理特性, 用水と廃水, 59(7), 548-553(2017)
7) 森泉雅貴, 福本明広, 藤本恵一, 山本康次, 奥村早代子:リン除去技術における鉄電解法の最適電解条件の検討, 水環境学会誌, 23(5), 279-284 (2000)
(フジクリーン工業(株) 第二開発部)
 
 
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