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家庭系生ごみのメタン発酵による温室効果ガス削減効果 |
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高橋 亘 |
(一社)浄化槽システム協会講師団 |
(月刊浄化槽 2020年1月号) |
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1.はじめに
近年、地球温暖化の影響で、異常気象や災害、生態系の異変、熱中症・感染症の増加等の問題がクローズアップされている。地球温暖化の対策にはその要因となる温室効果ガスの削減が重要で、国ごとに目標値を定めて各所で様々な取り組みがなされている。そこで、食品廃棄物の一部として焼却されている家庭系生ごみをメタン発酵処理し、得られた処理性能から温室効果ガスの削減効果を試算したので紹介する。 |
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2.メタン発酵法の利点
メタン発酵の研究は19世紀の後半から注目され始めた技術で、下記のような利点がある。
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嫌気性細菌の働きによって、バイオマス中の有機物をメタン(バイオガス)としてエネルギー回収することにより、電力ひいては化石燃料の節減につながり、CO2排出量の削減がもたらされる。 |
A |
バイオマス中の有機物は大部分がガス化されるので、メタン発酵残渣中の有機物量が減り、後処理が容易になる。 |
B |
タン発酵残渣はコンポスト化されやすく、ウイルス、病原菌に対する疫学的安全性が高まり、良質な堆肥・液肥として利用できる。 |
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3.メタン発酵実験
実験に使用する家庭系生ごみ(以下、生ごみと称す)は自治体から供給していただいたものを使用した。なお、ディスポーザでの破砕に不適で、かつ、メタン発酵(生分解)されない貝殻やプラスチック類等の食品以外も混入していたため、それらは実験前に分別した。
図1にフローシート及び主要構成機器仕様を示す。ディスポーザへの生ごみ投入量は60〜120kg/dとし、生ごみ破砕時に希釈水として生ごみ量の2.5〜3倍の水道水を入れた。ディスポーザ破砕物はポンプで圧送した。メタン発酵槽は完全混合法とし、攪拌は槽内のガスを用いたガス攪拌とした。当該槽には蒸気を吹き込み、槽内液温を常時55℃に維持した。当該槽で発生したバイオガスは乾式脱硫処理後、フレアスタック(ガス燃焼装置)で燃焼し、無害化して大気に排気した。メタン発酵後の残渣は産廃処分した。なお、本実験は大阪ガス株式会社殿との共同で実施したものである。
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図−1 フローシート及び主要構成機器仕様 |
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4.実験結果
実験期間は馴養期間を含めて200日を超える期間であった。その結果を以下に示す。
4.1 生ごみの分別結果
実験前に分別した異物は牡蠣・サザエ殻、プラスチック、ガラス及び衣類等であり、それら異物の生ごみ中の混入率を図−2に示すが、平均で1wt%程度であった。なお、生ごみには大量のタケノコの皮など季節ごとに筍な食材の一部が含まれており、実験期間を通して一様ではなかった。
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図−2 生ごみ中の異物混入率 |
異物分別後の生ごみのTS(固形分)及びVS(有機物)含有率は表−1の通りであった。実際にバイオガスに転換されるのはVS分であるため、以降の本実験における各評価についてはVS含有率を加味することとした。
表−1 生ごみの分析結果 |
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4.2 VS負荷とVFAの関係
図−3にVS負荷(有機物負荷)とVFA(有機酸)の関係を示す。メタン発酵においては適正負荷を超えると中間生成物であるVFAが増加し、メタン発酵槽のpHを低下させてバイオガス生成に悪影響を及ぼす。本実験に関してはVFAの管理上限値を2,000mg/lと設定していたが、図3から分かるように2,000mg/lを超えることはなかったものの、VS負荷4.6kg-VS/m3・d以上でVFAが増加傾向にあることから、本実験条件における適正VS負荷は4.6kg-VS/m3・dであることが分かった。
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図−3 VS負荷とVFAの関係 |
4.3 投入VS量とバイオガス発生量の関係
1日当たりの投入VS量とバイオガス発生量の関係を図−4に示す。VS量に応じてバイオガス発生量が変化しており、単位VS量当たりのバイオガス発生量(原単位)は670LN-dry/kg-VSであった。なおデータは割愛したが、投入生ごみと発酵残渣のCODcrから求めたバイオガス転換率(有機物除去率)は80〜85%であり、一般的なメタン発酵設備の転換率と遜色ない値であった。
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図−4 投入VS量とバイオガス発生量の関係 |
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5.環境性能評価
本実験で得られた結果をもとに、本方式(メタン発酵法)におけるオンサイト処理での環境負荷削減効果を、家庭系生ごみ4t/日処理を前提としてライフサイクル分析により定量的に評価した。比較条件は以下のとおりとした。
A:オフサイト集中焼却処理
B:オフサイト集中堆肥化処理
C:オンサイトメタン発酵処理(本方式)+オフサイト堆肥化処理の併用
表−2 各ケースにおける環境性能評価の条件 |
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各ケースの回収エネルギーとしては、表−2に示す代替物として利用することとする。 |
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Cは電力と温水を提供するが、温水供給を日中の8時間と24時間の2パターンとする。 |
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Cの発酵残渣は隣接する排水処理設備で処理するものとする。 |
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環境影響領域としては、温室効果ガス(GHG)について評価比較しそれを図−5に示す。
各ケースを比較すると、本方式をオンサイトで導入しオフサイト堆肥化も併用したCのケースで回収エネルギー(代替物)が大きくなっていることが分かり、全量焼却のAや全量堆肥化のBに対して45〜120kg-CO2eq/tonのGHG削減効果が得られることが分かった。
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図−5 GHG評価結果 |
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6.おわりに
今回はメタン発酵法で発生したバイオガスを有効活用することで温室効果ガスの削減効果があることの一例を報告した。なお、食品廃棄物のメタン発酵については一般的に10t/d処理以上で経済性が成り立つとされているが、本実験は0.5〜数t/d程度の小規模用途でも経済性を成り立たせることを目的としている。その点についてもメタン発酵槽本体のFRP化及び効率の良い運転方法の確立により目途が立っており、環境性と経済性の両面で社会に貢献できるシステムといえよう。
参考資料・文献
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((株)ダイキアクシス 開発部) |
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