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中村智明 |
(一社)浄化槽システム協会講師団 |
(月刊浄化槽 2019年 7月号) |
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1.はじめに
2015年のパリ協定(COP21)の採択により、我が国の温室効果ガス排出量の削減目標は、2030年度までに2013年度比マイナス26%、長期的には2050年までに80%としている。2017年度速報値1)によると、我が国の温室効果ガス排出量は、2013年度比マイナス8.2%であり、目標達成のためには更なる努力が必要である。浄化槽においては、廃棄物処理施設整備計画(平成30年6月閣議決定)で、省エネ浄化槽の導入により温室効果ガス削減量を5万トンCO2(2017年度見込み)から12万トンCO2(2022年度)へ拡大する目標が立てられている。
この目標を達成するため、環境省では2017年度より、旧来の老朽化した設備を廃して、高効率機械設備等を導入・改修する事業について補助を実施している。今回は、2018年度の二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(省エネ型浄化槽システム導入推進事業)を適用した事例(Type2)を紹介する。 |
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2.補助事業の概要
補助事業には2種類があり以下に概要を示す。補助事業の要件は年度により改正されているので、事業の計画にあたっては最新版を参照する必要がある。紹介事例は2018年度の事業だが、ここでは2019年度の概要を記載する。なお、補助事業の執行団体は、一般社団法人全国浄化槽団体連合会があたっており、ホームページに補助事業の詳細が記載されている2)。
@Type1 51人槽以上の既設合併処理浄化槽に付帯する機械設備等の改修・導入事業
機械設備の改修・導入によって、事業の対象となった機器の合計年間消費電力量が、事業前に比して5%以上削減できること。
AType2 構造基準に基づき設置された60人槽以上の合併浄化槽に係る本体交換事業
平成12年(2000年)3月末までに設置された60人槽以上の既設合併浄化槽でブロワを使用するものを、省エネ型の最新式浄化槽に交換することによって、年間消費電力量を5%以上削減できること。 |
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3.補助事業Type2の適用事例
紹介する事例は共同住宅の浄化槽の交換である。過去に住宅の建て替えが行われており、建設当初からみると総戸数が減少しているが、浄化槽は既設をそのまま使用していた。今回、浄化槽の老朽化と維持管理費の削減のため、補助事業のType2を利用して浄化槽の交換を行った。
(1)新旧浄化槽の比較
既設浄化槽と更新浄化槽の仕様を表-1に示す。既設浄化槽は、昭和53年に建設された旧構造基準型の長時間ばっ気方式(RC製)である。旧構造基準型の長時間ばっ気方式は、流量調整槽が無く、放流水質は101〜2000人槽はBOD60mg/L、501〜5000人槽は90mg/Lである。当施設は、流量調整槽を付加し、放流BODを20mg/Lとして計画していた。写真-1は更新浄化槽を設置完了した時の状況である。手前に更新浄化槽(FRP製)、奥に既設浄化槽(RC製)があり、流入管を切換えた後に既設浄化槽を撤去した(写真-2)。
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写真-1 更新浄化槽設置時 |
写真-2 既設浄化槽撤去後 |
(2)二酸化炭素排出の削減効果
浄化槽の入れ替えにより削減される二酸化炭素排出量の試算を行った(表-2)。機器の消費電力は年間で約40,000kwh削減され、二酸化炭素排出量は20.4tのCO2が削減された。また、1年間の保守点検回数も52回から4回に変更されるため、維持管理で使用される車両より発生するCO2も大幅に削減された。
(3)浄化槽管理者に対するメリット
浄化槽の入れ替えにより浄化槽管理者には以下のメリットが生じた。
@土地の有効活用
表-1に示すように浄化槽の設置面積は、既設浄化槽の約70%に削減された。
また、更新浄化槽の上部は駐車場として利用できるようなった。
A電気料金の削減
電気料金は20円/kwhと仮定すると1年間あたり約70万円の削減となった。
B維持管理費用の削減
既設浄化槽は週1回の点検であったが、更新後は4か月に1回となることから、
維持管理費用が大幅に削減された。 |
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4.既設浄化槽の状況
近年、高度成長期に建設されたコンクリート構造物の老朽化が社会的に問題となっている。原因はコンクリート内部の隙間へ外部から気体や液体が浸入し、様々な化学変化や物理変化を引き起こすことで経年劣化するためである。今回の既設浄化槽は築40年が経過しており、既設浄化槽を解体する前に、躯体や設備がどのような状況であったか調査を行った。処理槽は全高が4.0m(ばっ気槽の水深=3.0m)で地上に0.8m出ている半地下構造であり、隣にRC製機械室が併設されている。
1)処理槽
上部スラブは構造体の上に厚さ50mmのモルタル仕上げ(電線管の打ち込み用)となっており、モルタル部分で長さ30cm以上のクラックが、開口部等数か所に見られた(写真-3)。しかし、水槽内部の床・壁・天井や開口小口は、クラックやモルタル分の消失・骨材の露出は無く、外観に異常は見られなかった。
流量調整槽とばっ気槽の間の壁についてコア抜きを行い、コンクリート強度と中性化状況を調査した。コンクリート圧縮試験の結果、コンクリート強度は35N/mm2 であり設計基準強度以上であった。コンクリートの中性化試験では、流量調整槽側で平均7.4mm(最大9.0mm)中性化が進行していたが、ばっ気槽側は0.0mmで、水槽の雰囲気により中性化の進行は異なることが分かった。仮に、浄化槽を継続使用する場合、この中性化部分を高圧洗浄により剥離し、コンクリート補修をすることで更なる延命を図ることが可能となる。
マンホール(鋳鉄製)や縞鋼板蓋(SS/亜鉛メッキ製)、流入部へ降りるタラップ(SUS製)等金属部に腐植は見られず、蓋の開閉や流入部の昇降に支障はなかった(写真-4)。
2)機械室
機械室の壁と天井は、防音対策としてロックウールによる吹付を行っていた(写真-5)。昭和50年前後に施工されたロックウールの中には、発がん性のあるアスベストを含んでいるものがある3)ことから、解体にあたり、アスベスト含有の有無について試験を行い、アスベストが含まれていないことを確認した。アスベスト含有の有無は見た目では判別できないため、当時の浄化槽を解体する時は注意が必要である。
3)設備
ブロワやポンプ等、動力機器は定期的に更新されており故障機器は無かった。汚水計量タンク(FRP製)がスラブ上に設置されていたが、経年劣化により樹脂が減りガラス繊維が浮き出ていた(写真-6)。配管類は、屋外の塩ビ管、槽内のSGP管に劣化が見られた。
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写真-3 上部スラブに発生したクラック |
写真-4 開口蓋の状況 |
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写真-5 機械室内部の仕上げ状況 |
写真-6 FRP製タンクの劣化状況 |
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5.おわりに
大量にCO2を排出する都市を緑化することは、CO2の固定とともにヒートアイランド化を抑制し、暮らしやすい環境を創出することから、地球温暖化対策として最適な手法であると考える。しかし、その実現のためには、莫大な費用と広大な土地が必要となることから容易でない。
紹介した事例では、浄化槽の入れ替えにより年間20.4tのCO2を削減できた。この削減量は2.3ヘクタールのスギ人工林で吸収する量に相当する(1ヘクタールに40年生のスギ人工林1000本で1年間に8.8tのCO2を吸収4))。本制度が多くの施設で活用され、CO2の削減が進み、地球温暖化に起因する気象災害が少しでも減少するようになればと思う。
参考文献
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